る以上、忽ちやられるわけである。而も彼等が戦いを欲して進んだのでなく、勝頼からの主命で止むなく突進して死んだのであるから気の毒である。勝頼が天目山で死んだのは天正十年だが、武田はこの一戦で敗亡の形を現したのである。桶狭間では必死奇兵を弄して義元を倒した信長は、ここでは味方の多勢を頼んで万全の戦術を考えているのである。喰えない大将である。勝頼などが、到底及ばないのも仕方がないと云うべきである。天下が統一されたのは鉄砲が伝来された為であると史家は云うが、鉄砲の威力が極度に発揮されたのは長篠合戦が最初である。



底本:「日本合戦譚」文春文庫、文藝春秋社
   1987(昭和62)年2月10日第1刷発行
※底本は、物を数える際の「ヶ」(区点番号5−86)(「三ヶ所」等)を大振りに、地名などに用いる「ヶ」(「三方ヶ原」等)を小振りにつくっています。
入力:網迫、大野晋、Juki
校正:土屋隆
2009年7月16日作成
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