かった。
で、仕方がないというよりも、這々《ほうほう》の体《てい》で本陣を退って、越前勢の陣所へ帰って来たものの、主君の忠直卿に復命するのに、どう切り出してよいか、ことごとく当惑した。
越前少将忠直卿は、二十一になったばかりの大将であった。父の秀康卿《ひでやすきょう》が慶長十二年閏四月に薨《こう》ぜられた時、わずか十三歳で、六十七万石の大封を継がれて以来、今までこの世の中に、自分の意志よりも、もっと強力な意志が存在していることを、まったく知らない大将であった。
生れたままの、自分の意志――というよりも我意を、高山の頂に生いたった杉の木のように矗々《ちくちく》と沖《ひひ》らしている大将であった。今度の出陣の布令が、越前家に達した時も、家老たちは腫れ物に触るように恐る恐る御前にまかり出でて、
「御所様から、大坂表へ御出陣あるよう御懇篤な御依頼の書状が到着いたしました」と、言上した。家老たちは、今までにその幼主の意志を絶対のものにする癖がついていた。
それが、今日は家康の叱責を是非とも忠直卿の耳に入れねばならない。生れて以来、叱られるなどという感情を夢にも経験したことのない主君に対し
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