大島が出来る話
菊池寛

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)辛《から》く

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)洋服|丈《だけ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から2字上げ](大正七年六月)
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 苦学こそしなかったが、他人から学資を補助されて、辛《から》く学校を卒業した譲吉は、学生時代は勿論《もちろん》卒業してからの一年間は、自分の衣類や、身の廻りの物を、気にし得る余裕は少しもなかった。
 学生で居た頃は、彼はニコニコの染絣《そめがすり》などを着て居た。高等程度の学生としては、粗服に過ぎて居た。が、衣類に対しては、無感覚で無頓着であった譲吉は、自分の着て居る絣が、ニコニコであるか何であるかさえ知らなかった。
 そして豪放と云う看板の下に、自分の粗服を少しも気に掛けまいとした。実際また気に掛けても居なかった。
 が、譲吉が一旦学校を卒業してからと云うものは、服装を調《ととの》える必要を痛切に感じ始めたのである。彼が学生時代から、ズーッと補助を受けて居る、近藤氏の世話で××会社に入社した当初は、夫《それ》
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