であると云うのである。
大阪陣の起る前、秀頼よりの招状が幸村の所へ来た。徳川家の禄を食《は》みたくない以上、大阪に依って、事を成そうとするのは、幸村として止むを得ないところである。秀頼への忠節と云うだけではなく、親譲りの意地でもあれば、武人としての夢も、多少はあったであろう。
真田大阪入城のデマが盛んに飛ぶので、紀州の領主浅野|長晟《ながあきら》は九度山附近の百姓に命じてひそかに警戒せしめていた。
所が、幸村、父昌幸の法事を営むとの触込みで、附近の名主大庄屋と云った連中を招待して、下戸上戸の区別なく酒を強《し》い、酔いつぶしてしまい、その間に一家一門|予《かね》て用意したる支度甲斐甲斐しく百姓どもの乗り来れる馬に、いろいろの荷物をつけ、百人ばかりの同勢にて、槍、なぎ刀の鞘《さや》をはずし、鉄砲には火縄をつけ、紀伊川を渡り、大阪をさして出発した。附近の百姓ども、あれよあれよと騒いだが、村々在々の顔役共は真田邸で酔いつぶれているので、どうすることも出来なかった。浅野長晟之を聴いて、真田ほどの者を百姓どもに監視させたのは、此方の誤りであったと後悔した。
その辺、いかにも軍師らしくてい
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