「いゝえ。結構でございますの。」
美奈子は、平素《いつも》に似ず、きつぱりと答へた。その拒絶には、彼女の、芽にして、蹂み躙られた恋の千万無量の恨が、籠つてゐたと云つてもよかつた。
聡明な瑠璃子には、美奈子の心持が、可なり判つたらしかつた。彼女は、涙がにじんではゐぬかと思はれるほどの、やさしい眸で、美奈子を、ぢつと見詰めながら云つた。
「ねえ! 美奈さん。今晩は、よして呉れない。もう十時ですもの、あした早く入れに行くといゝわ。ねえ美奈さん! いゝでせう。」
彼女は、美奈子を抱きしめるやうに、掩ひながら、耳許近く、子供でもすかす[#「すかす」に傍点]やうに云つた。
平素《いつも》なら、母の一言半句にも背かない美奈子であるが、その夜の彼女の心は、妙にこじれ[#「こじれ」に傍点]てゐた。彼女は、黙つて返事をしなかつた。
「何うしても、行くのなら、妾《わたし》も一緒に行くわ。青木さんは、部屋で待つてゐて下さいね。ねえ! 美奈さん、それでいいでせう。」
さう云ひながら、瑠璃子は早くも、先に立つて歩まうとした。
美奈子は、一寸進退に窮した。母と一緒に郵便局へ行つても、出すべき手紙がなかつ
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