散々弄ばれて、揚句の端《はて》に、突き離されることになるのぢやありませんか。貴女は、僕を何《ど》ちらとも付かない迷ひの裡に、釣つて置いて、何時までも何時まで、僕の感情を弄ばうとするのではありませんか。僕は、貴女のなさることから考へると、さう思ふより外はないのです。」
「まさか、妾《わたし》そんな悪人ではないわ。貴君《あなた》のお心は、十分お受けしてゐるのよ。でも、結婚となると妾《わたし》考へるわ。一度あゝ云ふ恐ろしい結婚をしてゐるのでせう。妾《わたし》結婚となると、何か恐ろしい淵の前にでも立つてゐるやうで、足が竦んでしまふのです。無論、美奈子が結婚してしまへば、妾《わたし》の責任は無くなつてしまふのよ。結婚しようと思へば、出来ないことはないわ。が、その時になつて、本当に結婚したいと思ふか、したくないか、今の妾《わたし》には分らないのよ。」
母は、初めて本心の一部を打ち明けたやうに云つた。
「が、それは貴女《あなた》の結婚に対するお考へです。僕が訊きたいと思ふのは、僕に対する貴女のお考へです。貴女が結婚するかしないかよりも、貴女が僕と結婚するかしないかが、僕には大問題なのです。言葉を換
前へ
次へ
全625ページ中537ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング