であるかを、彼女に思ひ知らせてやるために。さうだ、自分の真実の血で、彼女の偽《いつはり》の贈物を、真赤に染めてやるのだ。そして、彼女の僅に残つてゐる良心を、恥《はづか》しめてやるのだ。』
[#ここで字下げ終わり]

 青木淳の遺して逝つた手記の言葉が、太陽の光に晒されたやうに、何の疑点もなくハツキリと解つて来た。彼女が、瑠璃子夫人であることに、もう何の疑ひもなかつた。純真な青年の感情を弄んで彼を死に導いた彼女が、瑠璃子夫人であることに、もう何の疑ひもなかつた。
『汝妖婦よ!』
 信一郎は、十分な確信を以て、心の中でさう叫んだ。青年は、彼女に対して、綿々の恨《うらみ》を呑んで死んだのである。白金《プラチナ》の時計を『返して呉れ。』と云ふことは、『叩き返して呉れ。』と云ふことだつたのだ。彼女の僅に残つてゐる良心を恥かしめてやるために、叩き返して呉れと云ふことだつた。
 さうだ! それを信一郎は、瑠璃子夫人のために、不得要領に捲き上げられてしまつたのである。
『取り返せ。もう一度取り返せ! 取り返してから、叩き返してやれ!』
 信一郎の心に、さう叫ぶ声が起つた。『それで彼女の僅に残つてゐる良
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