ろ/\と、止めどもなく湧き出でた。と、今まで毅然として立つてゐた、直也の男性的な顔が、妙にひきつツたかと思ふと、彼の赭《あかぐろ》い頬を、涙が、滂沱《ばうだ》として流れ落ちた。
美奈子は、恋人同士に、二人|限《き》りの久し振りの、やがて最後になるかも知れない会見を与へようと思つた。
「お母様! それでは、妾《わたくし》はお次ぎへ行つてをりますから。」
さう云つて、美奈子は次ぎの部屋に去らうとした。すると、意外にも瑠璃子は、瀕死の声を揚げて云つた。
「美奈さん! あなたも――どうか/\ゐて下さい。」
それは、かすかな、僅に唇を洩るゝやうな声だつた。
「お母様、妾《わたくし》もゐるのですか。妾もゐるのですか。」美奈子は、再び訊いた。母は、肯いた。いな肯くやうに、その重い頭を、動かさうとしたのだ。
やがて、瑠璃子は、その衰へはてた眸を持ち上げながら、何かを探るやうな眼付をした。
「瑠璃さん! 僕です、僕です。分りますか。杉野ですよ。」
直也も、激して来る感情に堪へないやうに叫びながら、瑠璃子に掩ひかぶさるやうに、その赭《あかぐろ》い顔を、瑠璃子の顔に触れるやうな近くへ持つて行つた。
瀕死の眼にも恋人の顔が分つたのだらう、彼女の衰へた顔にも嬉しげな微笑の影が動いた。それは本当に影に過ぎなかつた。微笑む丈《だけ》の力も、彼女にはもう残つてゐなかつたのだ。
「直也さん!」
瑠璃子は、消えんとする命の最後の力を、ふりしぼつたのだらう、が、しかし、それはかすかな、うめくやうな声として、唇を洩れたのに過ぎなかつた。
「何です? 何です?」
直也は、瑠璃子の去らんとする魂に、縋り付くやうに云つた。
「わ――た――し、あなたには何も云ひませんわ。たゞお願ひがあるのです。」
それだけ続けるのが、彼女には精一杯だつた。
「願ひつて何です?」
「聴いてくれますか。」
「聴きますとも。」
直也は、心の底から叫んだ。
「あの――あの――美奈さんを、貴君《あなた》にお頼みしたいのです。美奈さんは――美奈さんは――みなし――みなし――みなしご……」
そこまで、云つたとき、彼女の張り詰めた気力の糸が、ぶつりと切れたやうに、彼女はぐつたりとなつてしまつた。
母は、直也を呼んだことが、彼女自身のためではなく、母が一番信頼する直也に、自分の将来を頼む為であつたかと思ふと、美奈子は母の真
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