三日、此処へ宿《とま》つて見る気になつたのです。それが、意外にもホテルの玄関で貴君にお目にかゝらうとは、貴君ばかりでなく荘田夫人にお目にかゝらうとは。」
紳士は一寸意味ありげな微笑を洩しながら、
「実は、お兄《あにい》さんが遭難されたとき、同乗してゐたと云ふ一人の旅客は私なのです。」
「えゝつ!」
思はず、青年は、駭《おどろ》きの目を眸《みは》つた。
「お兄《あにい》さんの死は、形は奇禍のやうですが、心持は自殺です。私は、さう断言したいのです。お兄さんは、死場所を求めて、三保から豆相《づさう》の間を彷徨《さまよ》つてゐたのです。奇禍が偶然にお兄《あにい》さんの自殺を早めたのです。」
紳士の表情は、可なり厳粛であつた。彼が、いゝ加減なことを云つてゐるとは、どうしても思はれなかつた。
「自殺! 兄はそんな意志があつたのですか。」
青年は駭きながら訊いた。
「ありましたとも。それは、貴君にも直ぐ判りますが。」
「自殺! 自殺の意志。もしあつたとすれば、それは何のための自殺でせう。」
「ある婦人のために、弄ばれたのです。」
紳士は苦々しげに云つた。
「婦人のために、弄ばれる。」
さう繰り返した青年の顔は、見る/\色を変へた。彼は、心の中で、ある恐ろしい事実にハツと思ひ当つたのである。
「それは本当でせうか。貴君は、それを断言する証拠がありますか。」
青年の眼は、興奮のために爛々と輝いた。
「ありますとも。お兄《あにい》さんの遺言と云ふのも、お兄さんを弄んだ婦人に対して、お兄《あにい》さんの恨みを伝へて呉れと云ふことだつたのです。」
「うゝむ!」
青年は、低く呻《うな》るやうに答へた。
「実は、私はその恨みを伝へようとしたのです。が、その婦人は、恨《うらみ》を物の見事に跳ねつけてしまつたのです。そればかりでなく、死んだお兄《あにい》さんを辱めるやうなことまでも云つたのです。その婦人はお兄《あにい》さんを弄んで、間接に殺しながら、その責任までも逃れようとしてゐるのです。青木さんが、自殺の決心をしたとしても、それは私《わたくし》の故《せゐ》ではありません、あの方の弱い性格の故《せゐ》だと、その婦人は云つてゐるのです。そればかりではありません……」
紳士も、自分自身の言葉に可なり興奮してしまつた。
五
紳士は興奮して叫び続けた。
「そればかり
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