憤然としたらしかつた。
「あんな重大なことを、僕があんなに一生懸命にお願ひしたのを、貴女はもう忘れて、いらつしやるのですか。ぢや、繰り返してもう一度、申上げませう。瑠璃子さん、貴女は僕と結婚して下さいませんか。」
結婚と云ふ思ひがけない言葉を聴くと、美奈子は、最後の打撃を受けたやうに思つた。青年の母に対する決心が、これほど堅く進んでゐようとは夢にも思つてゐないことだつた。
「あのお話! あれには貴君《あなた》、ハツキリとお答へしてあるぢやないの。」
母は、青年の必死な言葉を軽く受け流すやうに答へた。
「あのお答へには、もう満足出来なくなつたのです。」
母のハツキリとした答へと云ふのは、どんな内容だらうと思ふと、美奈子は悪い/\と思ひながらぢつと耳を澄まさずにはゐられなかつた。
七
「あんなお答には、僕はもう満足出来なくなつたのです。あんな生ぬるいお答には、もう満足出来なくなつたのです。貴女《あなた》は、美奈子さんが、結婚してしまふまで、この返事は待つて呉れと仰《おつ》しやる。が、貴女のお心|丈《だけ》をお定《き》めになるのなら、美奈子さんの結婚などは、何の関係もないことではありませんか。僕に約束をして下さつて、たゞ、時期を待てと仰しやるのなら僕は何時までも待ちます。五年でも十年でも、二十年でも、否生涯待ち続けても僕は悔いないつもりです。貴女《あなた》のはたゞ『返事を待て』と仰《おつ》しやるのです、お返事|丈《だけ》ならば、美奈子さんが結婚しようがしまいが、それとは少しも関係なしに、貴女のお心一つで、何うともお定《き》めになることが、出来ることぢやありませんか。僕に約束さへして下されば、僕は欣んで五年でも七年でも待つてゐる積りです。」
青年の声は、だん/\低くなつて来た。が、その声に含まれてゐる熱情は、だん/\高くなつて行くらしかつた。しんみりとした調子の中に、人の心に触れる力が籠つてゐた。自分の名が、青年の口に上る度に、美奈子は胸をとゞろかせながら、息を潜めて聞いてゐた。
母が何とも答へないので、青年は又言葉を続けた。
「返事を待て、返事を待つて呉れと、仰しやる。が、その返事がいゝ返事に定《き》まつてゐれば、五年七年でも待ちます。が、もし五年も七年も待つて、その返事が悪い返事だつたら、一体|何《ど》うなるのです。僕は青春の感情を、貴女に
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