七
「大分いろ/\な御意見が出たのですがね。茲《ここ》にいらつしやる渥美君、確かさう仰《おつ》しやいましたね。」三宅は、一寸信一郎の方を振り顧つた。「大変紅葉をお説きになるのです。紅葉を措いて明治時代の文豪は、外にないだらうと、かう仰しやるのです。文章|丈《だけ》を取つても、鼈甲《べつかふ》牡丹のやうな絢爛さがあるとか何とか仰《おつ》しやるのです。」
三宅が、秋山氏に信一郎の持説を伝へてゐる語調の中には、『此の素人が』と云つた語気が、ありありと動いてゐた。秋山氏は、いかにも小説家らしく澄んだ眼で、信一郎の方をジロリと一瞥したが、吸ひさしの金口の火を、鉄の灰皿で、擦り消しながら、「鼈甲牡丹の絢爛さ! なるほど、うまい形容だな。だが、擬《まがひ》の鼈甲牡丹なら三四十銭で、其処らの小間物屋に売つてゐさうですね。」
瑠璃子夫人を初め、一座の人々が、秋山氏の皮肉を、どつと笑つた。
「紅葉山人の絢爛さも、きイちやん、みイちやん的読者を欣ばせる擬《まがひ》の鼈甲牡丹ぢやありませんかね。一寸見《ちよつとみ》は、光沢《つや》があつても、触つて見ると、牛の骨か何かだと云ふことが、直ぐ分りさうな。」
秋山氏が、文壇での論戦などでも、自分自身の溢れるやうな才気に乗じて、常に相手を馬鹿にしたやうな、おひやらかしてしまふやうな態度に出ることは、信一郎も予々《かね/″\》知つてゐた。それが、妙な羽目から、自分一人に向けられてゐるのだと思ふと、信一郎は不愉快とも憤怒とも付かぬ気持で、胸が一杯だつた。が、かうした文学者を相手に、議論を戦はす勇気も自信もなかつた。相手の辛辣な皮肉を黙々として、聴いてゐる外はなかつた。たゞ、文壇の花形ともある秋山氏が、自分などの素人を捕へて、真向から皮肉を浴びせてゐるのが、可なり大人気ないやうにも思はれて、それが恨めしくも、憤ろしくもあつた。
「第一『金色夜叉』なんか、今読んで見ると全然通俗小説ですね。」
秋山氏は、一刀の下に、何かを両断するやうに云つた。
瑠璃子夫人は、『おや。』と云つたやうな軽い叫びを挙げながら云つた。
「三宅さんも、先刻《さつき》そんなことを云つたのよ。あ、分つた! 三宅さんのは秋山さんの受売だつたのね。」
三宅は、赤面したやうに、頭を掻いた。一座は、信一郎を除いて、皆ドツと笑つた。
秋山氏は、皮肉な微笑を浮べながら、
「いや
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