郎の意外な雄弁に、半可な文学通に過ぎない小山男爵は、もうとつくに圧倒されたと見え、その白い頬を、心持赤くしながら、不快さうに黙つてしまつた。
三宅は、云ひ込められた口惜しさを、何うかして晴さうと、駁論の筋道を考へてゐるらしく口の辺りをモグ/\させてゐた。
「渥美さんは、本当に立派な文芸批評家でいらつしやる。妾《わたくし》全く感心してしまひましたわ。」
瑠璃子夫人は、心から感心したやうに、賞讃の微笑を信一郎に注いだ。
信一郎は、女王の御前仕合で、見事な勝利を獲た騎士のやうに、晴れがましい揚々たる気持になつてゐた。
「然し……」と、三宅と云ふ青年が、必死になつて駁論を初めようとした時だつた。
廊下に面した扉《ドア》を、外からコツ/\と叩く音がした。
六
「誰方《どなた》!」
夫人は、扉《ドア》を叩く音に応じてさう云つた。
「僕です。」
外の人は明晰な、美しい声でさう答へた。
「あら、秋山さんなの。丁度よいところへ。」
夫人は、さう云ひながら、いそ/\と椅子を離れた。信一郎が、入つて来たときは、夫人はたゞ椅子から、腰を浮かした丈《だけ》だつたのに。
夫人が、手づから扉《ドア》を開けると、『僕です。』と、名乗つた男は、軽く会釈をしながら、入つて来た。信一郎は、一目見たときに、何処かで見覚えのある顔だと思つたが、一寸思ひ出せなかつた。が、一目見た丈《だけ》で、作家か美術家であることは、直ぐ解つた。白い面長な顔に、黒い長髪を獅子の立髪か何かのやうに、振り乱してゐた。が、頭は極端に奔放であるにも拘はらず、薩摩上布の衣物《きもの》に、鉄無地の絽の薄羽織を着た姿は、可なり瀟洒たるものだつた。夫人はその男とは、立ちながら話した。
「暫く御無沙汰致しました。」
「ほんたうに長い間お見えになりませんでしたのね。箱根へお出でになつたつて、新聞に出てゐましたが、行らつしやらなかつたの。」
「いや、何処へも行きやしません。」
「それぢや、やつぱり例の長篇で苦しんでゐらしつたの。本当に、妾《わたくし》の家へいらつしやる道を忘れておしまひになつたのかと思つてゐましたの。ねえ! 三宅さん。」
夫人は、三宅と云ふ学生を顧みた。
「やあ!」
「やあ!」
三宅とその男とは顔を見合して挨拶した。
「本当に、暫らくお見えになりませんでしたね。貴君《あなた》が、いらつしやら
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