が、頻りに痙攣し、太い巨きい四肢は、最後のあり丈《たけ》の力を籠めたやうに、烈しく畳の上にのたうつた。
「水! 水!」
勝平は、苦しさうな呻き声を洩した。
女中が、転がるやうに持つて来た水を、コップのまゝ口へ注がうとしたが、思ひ通《どほり》にはならないらしい口辺の筋肉は、当《あて》がはれたコップの水を、咽喉の辺から胸にかけて滾《こぼ》してしまつた。瑠璃子は、それを見ると、コップの水を一息飲みながら、口移しに勝平の口中へ注いでやつた。名ばかりではあるが、妻としての情であつた。
水に依つて、湿《うるほ》された勝平の咽喉は、初めてハツキリした苦悶の言葉を発した。
「あゝ苦しい。胸が苦しい。切ない。」
彼は、さう叫びながら、心臓の辺《あたり》を幾度も掻きむしつた。
「直ぐ医者が参ります。もう少しの御辛抱です。」
瑠璃子も、オロ/\しながら、さう答へた。瑠璃子の言葉が、耳に通じたのだらう。彼は、空虚《うつろ》な視線を妻の方に差し向けながら、
「瑠璃子さん、俺《わし》が悪かつた。みんな、俺《わし》が悪かつた。許して下さい!」
彼は、身体中に残つた精力を蒐めながら、やつと切々に云つた。つい一時間前の告白を疑つた瑠璃子にも、男子のかうした瀕死の言葉は疑へなかつた。瑠璃子の冷たく閉ぢた心臓にも、それが針のやうに刺し貫いた。
「あゝ苦しい。切ない! 心臓が裂けさうだ!」
勝平は、心臓を両手で抱くやうにしながら、畳の上を、二三回転げ廻つた。
「美奈子! 美奈子はゐないか!」
彼は、突如苦しさうに、半身を起しながら、座敷中を見廻した。併し美奈子が其処にゐる訳はなかつた。二三秒間身体を支へ得た丈で、またどうと後へ倒れた。
「美奈子さんも直ぐ来ます。電話で呼びますから。」
瑠璃子は、耳許に口を寄せながら、さう云つた。
「あゝ苦しい! もういけない! 苦しい! 瑠璃子さん! 頼みます、美奈子と勝彦のこと。貴女は、俺《わし》を憎んでゐても、子供達は憎みはしないでせう。貴女を頼むより外はない! 俺《わし》の罪を許して子供達を見てやつて下さい! 頼みます! 勝彦! 勝彦!」
彼は、さう云ひながら、再び身体を起さうとした。愚かなる子に、最後の言葉をかけようとしたのであらう。が、愚なる子は、父の臨終の苦しみを外《よそ》に、以前のまゝに、ケロリとして立つたまゝ、此場の異常な光景《シーン》
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