から求めた華麗なフィヤット型の大自動車であつた。新郎新婦を、その幾久しき合衾《がふきん》の床に送るべき目出度き乗物だつた。
 瑠璃子は、夫――それに違ひはなかつた――に招かるゝまゝ、相並んで腰を降した、が、その美しい唇は彫像のそれのやうに、堅く/\結ばれてゐた。
 勝平は、何うにかして、瑠璃子と言葉を交へたかつた。彼は、瑠璃子の美しさがしみ/″\と、感ぜられゝば感ぜられる丈、たゞ黙つて、並んでゐることが、愈《いよ/\》苦痛になり出した。
 彼は、瑠璃子の顔色を窺ひながら、オヅ/\口を開いた。
「大変沈んでをられるやうぢやが、さう心配せいでもようござんすよ。俺《わし》だつて貴女《あなた》が思つてゐるほど、無情な人間ぢやありません。貴女のお父様を、苛めて済まんと思つてゐるのです。罪滅ぼしに、出来る丈《だけ》のことはしようと思つてゐるのです。貴女も、俺を敵《かたき》のやうに思はんでな。これも縁ぢやからな。」
 勝平は、誰に対しても、使つたことのないやうな、丁寧な訛のある言葉で、哀願するやうな口調でしみ/″\と話し出した。が、瑠璃子は、黙々として言葉を出さなかつた。二人の間に重苦しい沈黙が暫らく続いた。
「実は恥を云はねばならないのだが、今年の春、俺《わし》の家の園遊会で、貴女を見てから、年甲斐もなく、はゝゝゝゝ。それで、つい、心にもなく貴女のお父様までも、苦しめて、どうも何とも済まないことをしました。」
 勝平は、瑠璃子の心を解かうとして心にもない嘘を云ひながら、大きく頭を下げて見せた。
 その刹那に、美しい瑠璃子の顔に、皮肉な微笑が動いたかと思ふと、彼女の容子は、一瞬の裡に変つてゐた。
「そんなに云つて下さると妾《わたくし》の方が却つて痛み入りますわ。妾《わたくし》のやうな者を、それほどまでして、望んで下さつたかと思ふと、ほゝゝゝゝ。」
 と、車内の薄暗の裡でもハツキリと判るほど、瑠璃子は勝平の方を向いて、嫣然《えんぜん》と笑つて見せた。勝平は、その一笑を投げられると、魂を奪はれた人間のやうに、フラ/\としてしまつた。

        五

 瑠璃子の嫣然たる微笑を浴びると、勝平は三鞭酒《シャンペンしゆ》の酔が、だん/\廻つて来たその巨きい顔の相好を、たわいもなく崩してしまひながら、
「あゝ、さうでがすか。貴女の心持はさうですか、それを知らんもんですから、心配したわい
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