て、砕けよ裂けよとばかりに、堅い、鉄のやうに堅い扉《ドア》を乱打した後、身体全体を、烈しい音を立てゝ、それに向つて、打ち付けた。その時に、何かの奇蹟が起つたやうに、今迄はガタリとも動かなかつた扉《ドア》が軽々と音もなく口を開いた。機《はづ》みを喰つた彼女の身体《からだ》は、つゝと一間ばかりも流れて、危く倒れようとした。その時、父の老いてはゐるけれども、尚力強い双腕が、彼女の身体を力強く支へたのである。
「お父様!」と、上ずツた言葉が、彼女の唇を洩れると共に、彼女は暫らくは失神したやうに、父の懐《ふところ》に顔を埋めたまゝ烈しい動悸を整へようと、苦しさにあへいでゐた。
 気が付いて見ると、父の顔は涙で一杯だつた。卓《テーブル》の上には、遺書《かきおき》らしく思はれる書状が、数通重ねられてゐる。
「瑠璃さん! あはれんでお呉れ! お父さんは死に損つてしまつたのだ! 死ぬことさへ出来ないやうな臆病者になつてしまつたのだ! お前の声を聞くと、私の決心が訳もなく崩されてしまつたのだ! お前に恨まれると思ふと、お父様は死ぬことさへ出来ないのだ。」
 父は、瑠璃子の昂奮が、漸く静まりかけるのを見ると、呟くやうに語り始めた。
「まあ、何を仰《おつ》しやるのでございます、死ぬなどと。まあ何を仰しやるのでございます。一体何うしたと云つて、そんな事を仰しやるのでございます。」
「あゝ恥しい。それを訊いて呉れるな! 俺《わし》はお前にも顔向けが出来ないのだ! 彼奴《あいつ》の恐ろしい罠に、手もなくかゝつたのだ。あんな卑しい人間のかけた罠に、狐か狸かのやうに、手もなくかゝつたのだ。恥しい! 自分で自分が厭になる!」
 父は、座にも堪へないやうに、身悶えして口惜しがつた。握つてゐる拳がブル/\と顫へた。
「彼奴と仰《おつ》しやりますと、やつぱり荘田でございますか。荘田が、何をいたしましたのでございますか。」
 瑠璃子も烈しい昂奮に、眼の色を変へながら、父に詰め寄つて訊いた。
「今から考へると、見え透いた罠だつたのだ。が、木下までが、俺《わし》を売つたかと思ふと俺《わし》は此の胸が張り裂けるやうになつて来るのだ!」
 父は、木下が眼前《めのまえ》にでもゐるやうに、前方を、きつと睨みながら、声はわな/\と顫へた。
「へえ! あの木下が、あの木下が。」と、瑠璃子も暫らくは茫然となつた。
「金《かね》
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