のだと相手が謀《たくら》んでゐるらしいのが、瑠璃子には、余りに判り過ぎてゐるやうに思へた。
が、瑠璃子の心配は無駄だつた。父は相手が長々と喋《しや》べり続けたのを聞いた後で、二三分ばかり黙つてゐたらしいが、急にゐずまひを正したらしく、厳格な一分も緩みのない声で云つた。
「いや、大きに有難う。あなたの好意は感謝する。が、考ふる所あつて、お受けすることは出来ない。借財は証文の期限|通《どほり》に、ちやんと弁済する。それから、縁談の事ぢやが、本人が貴方《あなた》であらうが御子息であらうが、お断りすることには変りがない。何うか悪しからず。」
父は激せず熱せず、毅然とした立派な調子で云ひ放つた。父の立派な男らしい態度を、瑠璃子は蔭ながら、伏し拝まずにはゐられなかつた。何と云ふ凜々しい態度であらう。どんなに此の先苦しまうとも、あゝした父を、父としてゐることは、何といふ幸福であらうかと思ふと、熱い涙が知らず識らず、頬を伝つて流れた。
真向から平手でピシヤツと、殴《なぐ》るやうな父の返事に、相手は暫らくは、二の句が、次《つ》げないらしかつた。が、暫らくすると、太い渋い不快な声が聞え始めた。
「ふゝむ。これほど申し上げても、私の好意を汲んで下さらない。これほど申上げても、私の心がお分りになりませんのですか。」
相手の言葉付は、一眸の裡に変つてゐた。豹だ、一太刀受けて、後退《あとじさり》しながら、低くうなつてゐるやうな無気味な調子だつた。
「はゝゝゝ、好意! はゝゝゝ、お前さんは、こんなことを好意だと、云ひ張るのですか。人の顔に唾を吐きかけて置いて、好意であるもないものだ。はゝゝゝゝゝゝ。」父は、相手を蔑すみ切つたやうに嘲笑《あざわら》つた。
「はゝゝ、閣下も、貧乏をお続けになつたために、何時の間にか、僻んでおしまひになつたと見える。此の荘田が、誠意誠心申上げてゐることが、お分りにならない。」
相手も、負けてはゐなかつた。豹が、その本性を現して、猛然と立ち上つたのだつた。
「はゝゝゝゝ、誠意誠心か! 人の娘を、金で買ふと云ふ恥知らずに、誠意などがあつて、堪るものか。出直してお出なさい!」父は、低い力強い声で、さう罵つた。
「よろしい! 出直して参りませう。閣下、覚えて置いて下さい! 此の荘田は、好意を持つてをりますと同時に、悪意も人並に持つてゐるものでございますから。お言葉に
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