の手を捻ぢるやうに、苛責《いぢめ》られる。さう思つて来ると、瑠璃子はやるせない憤りと悲しみとで、胸が一杯になつて来た。金さへあれば、どんな卑しい者でもが、得手勝手なことをする世の中全体が、憤ろしく呪はしく思はれた。
 瑠璃子は、今の場合、かうした不快な通知書を、父に見せることが、一番厭なことだつた。父が、どんなに怒り、どんなに口惜しがるかが余りに見え透いてゐたから。
 でも、かうした重要な郵便物を、父に隠し通すことは出来なかつた。瑠璃子は、重い足を運びながら、父の寝室へ行つて見た。が、父はまだ起きてはゐなかつた。スヤ/\と安らかな呼吸をしながら名残りの夢を貪つてゐる父の窶《やつ》れた寝顔を見ると、瑠璃子は出来る丈かうした不快な物を父の眼には触れさせたくはなかつた。彼女は、そつと忍び足に枕元に寄り添つて、枕元の小さい卓子《テーブル》の上に置いてある、父の手文庫の中にその呪はれた紙片を、そつと音を立てずに入れた。何時までも、父の眼には触れずにあれ、瑠璃子は心の中で、さう祈らずにはゐられなかつた。
 その日、食事の度毎に顔を合せても、父は何とも云はなかつた。夜の八時頃、一人で棊譜を開いて盤上に石を並べてゐる父に、紅茶を運んで行つたときにも、父は二言三言瑠璃子に言葉をかけたけれど、書状のことは、何も云はなかつた。
 願はくは、何時までも、父の眼に触れずにあれ、瑠璃子は更にさう祈つた。どうせ、一度は触れるにしても、一日でも二日でも先きへ、延ばしたかつた。
 が、翌日眼を覚まして、瑠璃子が前の日の朝の、不快な記憶を想ひ浮べながら、その朝の郵便物に眼をやつたとき、彼女は思はず、口の裡で、小さい悲鳴を挙げずにはゐられなかつた。其処に、昨日と同じ内容証明の郵便物が、三通まで重ねられてゐたのである。
 それを取り上げた彼女の手は、思はずかすかに顫へた。もう、父に隠すとか隠さないとか云ふ余裕は、彼女になかつた。彼女はそれを取り上げると、救ひを求むる少女のやうに、父の寝室に駈け込んだ。
 父は起きてはゐなかつたが、床の中で眼を覚してゐた。
「お父様! こんな手紙が参りました。」瑠璃子の声は、何時になく上ずツてゐた。
「昨日のと同じものだらう。いや心配せいでもえゝ、お前が心配せいでもえゝ。」
 父は、静かにさう云つた。昨日の書状も、父は何時の間にか、見てゐたのである。
 瑠璃子は、今更ながら
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