る木瘤のやうな拳を握りしめながら、今にも青年に飛びかゝるやうな身構へをしてゐた。
その時に、蹲まつてゐた青年がつと立ち上つた。女も続いて立ち上りながら云つた。
「でも、何か召し上つたら何《ど》う。折角いらしつたのですもの。」
「僕は、成金輩の粟《ぞく》を食《は》むを潔《いさぎよ》しとしないのです。ハヽヽヽ。」
青年は、半分冗談で云つたのだつた。が、憤怒に心の狂ひかけてゐた勝平にとつては、最後の通牒だつた。彼は、寝そべつてゐた獅子のやうに、猛然と腰掛から離れた。
六
勝平の激怒には、まだ気の付かない青年は、連の女を促して、丘を下らうとしてゐるのだつた。
「もし、もし、暫らく。」勝平の太い声も、遉《さすが》に顫へた。
青年は、何気ないやうに振返つた。
「何か御用ですか。」落着いた、しかも気品のある声だつた。それと同時に、連の女も振返つた。その美しい眉に、一寸勝平の突然の態度を咎めるやうな色が動いた。
「いや、お呼び止めいたして済みません。一寸御挨拶がしたかつたのです。」と、云つて勝平は、息を切つた。昂奮の為に、言葉が自由でなかつた。二人の相手は、勝平の昂奮した様子を、不思議さうにジロ/\と見てゐた。
「先刻、皆様に御挨拶した筈ですが、貴方《あなた》方は遅くいらしつたと見えて、まだ御挨拶をしなかつたやうです。私が、此家の主人の荘田勝平です。」
さう云ひながら、勝平はわざと丁寧に、頭を下げた。が、両方の手は、激怒のために、ブル/\と顫へてゐた。
遉《さすが》に、青年の顔も、彼に寄り添うてゐる少女の顔もサツと変つた。が、二人とも少しも悪怯《わるび》れたところはなかつた。
「あゝさうですか。いや、今日はお招きに与《あづか》つて有難うございます。僕は、御存じの杉野|直《たゞし》の息子です。茲《こゝ》に、いらつしやるのは、唐澤男爵のお嬢さんです。」
青年の顔色は、青白くなつてゐたが、少しも狼狽した容子は見せなかつた。昂然とした立派な態度だつた。青年に紹介されて、しとやかに頭を下げた令嬢の容子にも、微塵|狼狽《うろた》へた様子はなかつた。
「いや、先刻から貴君の御議論を拝聴してゐました。いろ/\我々には、参考になりました。ハヽヽ。」
勝平は、高飛車に自分の優越を示すために、哄笑しようとした。が、彼の笑ひ声は、咽喉にからんだまゝ、調子外れの叫び声にな
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