女などには見られないような高さに達していた。腰の周囲に木の皮を纏《まと》っただけで、よく発達した胸部を惜し気もなく見せていた。髪は梳《くしけず》らず、蔓草をさねかずら[#「さねかずら」に傍点]にしていた。色は黒かったが、瞳が黒く人なつこく光っていた。
 長い間、女性と接したことのない俊寛は、この少女を一目見ると、自分の裸体が気恥かしくなって、思わず顔が赤くなった。が、相手が少しの猜疑《さいぎ》もなく、無邪気に自分を凝視《ぎょうし》しているのを見ると、俊寛はそれに答えるように、軽い微笑を見せずにはいられなかった。少女は微笑はしなかったが、そのもの珍しげに瞠《みは》っている目に、好意を示す表情が動いたことは確かだった。俊寛は、久しぶりに人間から好意のある表情を見せられたので、胸がきゅっとこみ上げてくるように感じた。
 彼は、再び針を海中に投じた。魚は、すぐ食いついた。その魚を引き上げる間、少女は熱心に見物している。そして第三番目の針を投じても、少女は去らない。俊寛は、少女の方を振向きながら時々、微笑を見せる。少女は、硫黄《いおう》を採るために来たのだろう。が、硫黄を入れる筥《はこ》をそばへ
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