。」
 女中のマリエットが怪訝《けげん》そうな顔をしたので、セエラは真面目くさっていいました。
「私達にはわからないけど、お人形には読んだり、歩いたり、いろんなことが出来るんじゃアないかと、あたし思うのよ。ただそれは誰もいない時だけなの。なぜって、お人形にも何でも出来るとわかれば、お仕事やなんかをおしつけるようになるでしょう。だからきっと、お人形さん達の間には、何にも出来ないような顔をしていようというお約束があるのよ。マリエットが見ているうちは、そこにじっとしているけど、外へ出かけでもすると、きっと本を読んだり、窓の外を見に行ったりするのよ。そして、私達の足音が聞えるや否や、その椅子の中に飛び帰って、さっきからそこに坐っていたような顔してすましているのよ。」
 マリエットは、「おかしなお嬢さん。」とひとりごとをいいました。彼女はこの風変りな御主人がすっかり好きになりかけていました。彼女はこれまでに、セエラ程たしなみのいい子の世話をしたことはありませんでした。セエラはやさしくて、わかりよい口のきき方をしました。「どうぞ、マリエット」とか、「ありがとうよ、マリエット」とか、ひどく人を惹きつ
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