で、セエラを見ました。セエラは父からこれに似たまなざしをよく受けたものでした。で、セエラはそのまなざしを見ると、すぐ紳士の傍に跪きました。昔父とセエラが無二の親友であり、愛人同士だった頃、父の傍に跪いたように。
「じゃア、私のお友達はあなたでしたのね。あなたが私のお友達だったのですわねエ。」
 そういうとセエラは、紳士の痩せ細った手の上に顔を押しあてて、幾度も幾度も接吻しました。
 それを見ると、カアマイクル氏は細君に囁きました。
「あの人も、もう三週間とたたぬ中《うち》に、きっと元の身体になるだろうよ。ほら、あの様子を御覧。」
 カアマイクル氏のいった通り、紳士の様子はすっかり変ってしまいました。『小さな奥様』が見付かったからには、また何か新しい計画を考えなければなりません。まず第一に、ミンチン先生の問題がありました。一応先生にも面会の上、生徒の一身上に起きた変化を、報告しなければならないでしょう。そして、セエラはもう学校には戻らないことになりました。印度紳士はその点だけは、何といっても聞きませんでした。セエラは紳士の家に止《とどま》らなければならぬ、ミンチン先生のところへは、カアマイクル氏が行って、話して来るというのでした。
「帰らなくてもいいんですって? まアうれしい。」とセエラはいいました。「先生は、きっとお怒りになってよ。あの方は、私がお嫌いなのよ。でも、それは私が悪いからかもしれませんわ。なぜって、私の方でも先生が嫌いなのですもの。」
 だが、そこへちょうどミンチン先生自身が、セエラを探しにやって来ましたので、カアマイクル氏はわざわざ出掛けて行かないでもすみました。
          *        *        *
              *        *        *
 その晩、学校では皆いつものように、教室の煖炉の前に集っていました。そこへ、アアミンガアドが一通の手紙を持って、丸い顔に、妙な表情を浮べながら入って来ました。
「どうしたの?」と、二三人一時に叫びました。
「私、たった今、セエラさんから、この御手紙いただいたの。」
「セエラからですって?」「セエラはどこにいるの?」
「おとなりよ。印度の小父さんの所にいるのよ。」
「え? あの子は逐い出されたの?」「ミンチン先生は、そのことを知っているの?」「どうして、手紙なんかくれ
前へ 次へ
全125ページ中116ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング