、淋しい陰影を持っていた。やや感傷的なイワノウィッチは、彼女のこうした淋しさにかえって心をひかれるのであった。
彼は、毎夜必ずリザベッタの出演する白鳥座の桟敷に、身を置いた。そして、彼女があまり目立たぬ役を演じ終ると、決まって花束を贈ったのであった。
イワノウィッチがその女を獲るのは、ほんの僅かな労力であった。二十日も経たぬ頃には、彼は彼女と一緒に、ワルシャワの街の夜ふけに、馬車を走らせている自分を見出したのである。が、イワノウィッチは、自分の恋に恐ろしい競争者のあることにすぐ気がついたのである。幕が降りてから、歌手たちが銘々贈られた花束を手にして再び舞台に現れる時、リザベッタは、必ず二つの花束を持っていた。一つはイワノウィッチが贈ったものであったが、他の一つは何人《なんびと》によって贈られたのか分からなかった。人気の立たない、淋しいリザベッタは、二つ以上の花束を持っていることは、はなはだ希であったが、二つを欠いたことはなかった。イワノウィッチは、花束の代りに上等な花輪を贈ってみた。すると、リザベッタはまた二つの花輪を持って舞台に現れた。イワノウィッチが大きい花籠を贈ると、隠れた敵手《ライバル》は、またすぐ大きい花籠をリザベッタに贈って、その挑戦に応ずるのであった。
イワノウィッチは、相手の名をリザベッタにきくと、彼女は微笑をもらしながら、なんとも答えなかった。
が、間もなく、イワノウィッチの敵手《ライバル》を探る瞳に映じたのは、いつもこの小屋でよく顔を合わす同じ連隊の一等大尉のダシコフの姿であった。ダシコフは連隊副官を務めている大きい図体の男であった。この男は毎晩必ず一人で、桟敷に姿を見せていた。そしてきっと、花束を一つだけは用意しているのであった。
イワノウィッチは、本能的にこの男を、自分の競争者だと感じていた。イワノウィッチの感じは、彼をまったく欺《あざむ》かなかった。ある晩、彼は馬車を雇って、リザベッタが楽屋から出るのを迎えていた。
彼は、華やかな恋の欣《よろこ》びを感じながら、小柄なリザベッタを抱えるようにして、馬車に乗せて馭者《ぎょしや》に合図の手振りをした。その時であった。彼は楽屋口の閉場《はね》時の、混乱した群衆の中に、連隊副官のダシコフ大尉の蒼白な頬と、燃ゆるような二つの瞳とを見出したのである。イワノウィッチは怖ろしいものを見たように、
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