つも坐っていた。その背後には、権藤成郷氏が直木に贈った七言絶句の詩がかかっていた。
烏 兎 慌 忙 憂 不 絶。 一 年 更 覚 □ 年 切
猶 将 纂 述 役 心 形。 衰 髪 重 添 霜 上 雪
と云う文句であった。
直木は、こゝで客も引見すれば、この卓子の上で原稿もかいた。机の上に、封を切った手紙や請求書などが、のっかっていた。
去年の秋頃、倶楽部へは社の連中が、あまり行かなくなった。直木は、だまっているくせに、客好きなので、客が多い方が好きなので、執筆の邪魔になっても、お客が来た方がよかったらしい。
倶楽部へ行く人が、少くなったが、自分は毎晩のように行った。自分は、午前から午後三時頃まで、家にいて原稿をかいているのだが、去年の秋から新聞を二つ書かねばならなかった。新聞を一つ書くにも二時間はかゝる、二つ書くと四時間以上はかゝる。家にいて、新聞を二つ書くと、雑誌の仕事は何にも出来ない。だから、これまでの規定以上、夜倶楽部へ行って、新聞を一つ書くことにした。
だから、殆ど毎晩のように、倶楽部へ行った。
原稿をかく前後には、直木と卓子と卓子を挟んで坐っていたが、何も
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