日《ついたち》に定《き》まっていた。その朔日の早暁に、元就が殺到したわけである。
元就は鼓の浦へ着くと、乗っていた兵船を尽く二十日市へ漕ぎ帰らしめた。正に生還を期せぬ背水の陣である。吉川元春は先陣となって、えいえい声を掛けて坂を上るに、其声|自《おのずか》ら鬨の声になって、陶の本陣塔の岡へ殺到した。
陶方も毛利軍の夜襲と知って、諸方より本陣へ馳せ集って防戦に努めたが、俄かに馳せ集った大軍であるから、配備は滅茶苦茶で、兵は多く土地は狭く、駈引自由ならざるところに、元就の諸将、揉《も》みに揉んで攻めつけたから、陶軍早くも浮足たった。
かねて打合せてあった小早川隆景の軍隊は、本軍の鬨の声を聞くと、これも亦|大喊声《だいかんせい》をあげて前面から攻撃した。大和伊豆、三浦越中、弘中三河守等の勇将は、敵は少し、恐るるに足らず、返せ返せと叫んで奮戦したが、一度浮足たった大軍は、どっと崩れるままに、我先に船に乗らんと海岸を目指して逃出した。晴賢は、自身采配を以て身を揉んで下知したが、一度崩れ立った大軍は、如何《いかん》ともし難く、瞬《またた》く中に塔の岡の本陣は、毛利軍に蹂躙《じゅうりん》されて
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