ういって、皆に気を持たせた。
「うむ!」
「うむ!」
中間たちは、口々に呻った。
「抜打の勝負じゃ。はははははは」嘉平次は、浩然として笑った。
一座はしーんとした。
「柄に手がかかったと思ったときには、もう相手の肩口から迸った血が、さっと、まだ替えてから間もない青畳の上に散っていた」
実際、嘉平次の頭の中にも、そうした光景がまざまざと浮んだ。
「ほほう!」
「うむ!」
中間たちの感嘆は絶頂に達した。
「家人なども、定めし出合いましたろうな」
中間頭の左平の言葉遣いまでが、すっかり改まっていた。中間たちは、嘉平次が斬りかかる中間小者などを、左右に斬り払う勇壮な光景を予想していた。が、嘉平次はもっと別な点で、自分の武士を上げたかった。
「いや、中間小者などは、俺の太刀先に恐れをなして誰一人向かって来ぬ。が、さすがに連れ添う内儀じゃ。夫の敵とばかり、懐剣を逆手に俺に斬りかかって来た」
話が急に戯曲的な転回をしたので、一座ははっとどよめいた。嘉平次は、自分の話の効果を確かめるように、悠然と一座を見回した。
「不憫ながら、一刀の下におやりなすったか」お庭番の中間が、待ちきれないように
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