いう時のために、一命を捨てて、将軍家へ御奉公するためではなかったのか。こんな時に一命を捨てなければ、我々は先祖以来、禄盗人であったということになるではないか」
 そういって、大きな目を刮《む》いて、一座を睨《ね》め回した。
「左様、左様!」
「ごもっとも」
「御同感!」
 座中、ところどころから声がかかった。
「左様では、ござりましょうが……」
 軽輩ではあったが、大坂にいて京洛の事情に通じているために、特に列席を許された藤沢恒太郎が、やや下手《しもて》の座から、口を切った。
「すでに、有栖川宮が錦旗を奉じて、東海道をお下りになっているという確報も参っております。王政復古は、天下の大勢でござります。将軍家におかれても、朝廷へ御帰順の思し召しがあるという噂もござりまする。この際、将軍家の御意向も確かめないで、官軍である土佐兵と戦いますのはいかがなものでござりましょうか」
「将軍家に、帰順の思し召しあるなどと、奇怪なことを申されるなよ。鳥羽伏見には敗れたが、あれはいわば不意に仕掛けられた戦いじゃ、将軍家が江戸へ御帰城の上、改めて天下の兵を募られたら、薩長土など一溜りもあるものではない。もし
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