のが、よきに計らうべきだが、藤井も安井も算勘《さんかん》の吏で、時務ということを知らん。国家老の大石でもおれば、こんなばかなことをすまいが。浅野は、今度の役で評判を悪くするぞ。公儀の覚えもめでたくなくなるぞ」
 上野は、内匠頭にも腹が立ったが、江戸家老の処置にも怒りが湧いてきた。
(わしのいうことをきかないのなら、こっちにもそのつもりがある)
 そう考えて、
「手土産など、突っ返せ!」といった。用人が、
「それはあまり……」といった。
 上野は、だまって何か考えていた。

          五

 竜の口、堀通り角の伝奏屋敷は、塀も壁もすっかり塗り替えられて、庭の草の代りに、白い砂が、門をはいると玄関までつづいていた。
 吉良が、下検分に来るという日なので、替りの人々は、早朝から詰め切って、不安な胸でいた。
「どこも、手落ちはないか」
「無いと思う」
「思うではいけない」
「じゃ断じてない」
「でも、七百両ではどこかに無理が出よう」
「相役の伊達左京の方は、いくら使ったかしら?」
「それはわからん!」
「伊達より少ないと、肩身が狭いぞ」
「第一評判が悪くなる」と、人々がいっている時、
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