いか!」
気合をかけたらしい、鋭い声がした。近い廊下の雨戸が、叩き落されたらしい音がした。同時に、どっかの板塀にかけやを打ち込んでいるらしい音が、つづけざまにきこえた。
「浅野浪人かな?」
上野は、有明の消えている闇の中で脇差をさぐり当てた。
と、薄い灯の影がさして、
「御前」側用人が、叫んではいって来た。
「狼籍者が、押し込みました」
「浅野浪人か」
「そうらしいです。すぐお立退きを」
上野は、あわてて起き上った。太刀打ちの音がした。掛け声がきこえた。人の足音が、庭に廊下に部屋に、入りみだれかけた。
「こちらへ!」
「どこへ行く」
「お早く、お早く」
側用人は、勝手口に出て、戸を引き開けた。雪あかりであった。いろいろな物音が、冴えかえって、はっきりときこえてきた。用人は、炭小屋の戸をあけて、
「ここへ!」といった。上野は、裸足のまま中へはいると、用人はすぐ戸をしめてしまった。
「大勢か」
「五、六十人。裏と表から」
「五、六十人!」
上野は、そんなに大勢の人間が、浅野の家来の中から、自分を討つために残っていようとは思えなかった。
「外の加勢でもあるのではないか」
「さあ」
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