し (口惜しがっし)女子《おなご》のくせに、よう無慈悲なことがいえるな。ええわ、ええわ。今に思い知らせてやるけに。(退場する)
おきん この大根と粟とで、春まで命をつなぐんじゃ。一本だって、他人にやって堪るけ。
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(大根を入れた鍋を、竈《かまど》にかけ火を点ける)
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甚三 じゃ、おっ母、行って来るぞ。
おきん ああ行って来い!
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(二人の兄弟、「前掻き」と魚籠とを持って出て行く。入れ違いに村人勘五郎、慌しく入ってくる)
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勘五郎 おきんさん。甚吉どんはおらんかのう。
おきん おらん。今朝、早うからな、落松葉をな、お城下へ売りに出たよ。
勘五郎 落松葉を、うむ、そななものでも金になるけ。
おきん 百にもならねえだ。それでもな、粟の二合や三合は買えるけにな。
勘五郎 甚三も甚作もおらんかのう。
おきん 二人ともおらん。何ぞ用け。
勘五郎 おっ母、恐ろしいこと
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