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茂兵衛 (老眼をしばたたき一座を見回しながら)かような姿で、御一統にお目にかかり面目のうござる。
村人一 なんのそなな斟酌がいるもんけ。村のために、そなな身にならしゃったことはわかっているでな!
村人たち ほんまじゃ。ほんまじゃ。そなな会釈はいらんぞっ! それよりも早う、話しとくれ。
村年寄甲 しっ、静かに。
茂兵衛 そういわれては、なおさら面目ない。わしらの申し開き拙いによって、かように村中一統の難儀になったのじゃ。
村人一 庄屋どん、そななことよりも、今日の首尾、その手錠の子細を早う話してくれ! 気にかかってしようがないわ。
茂兵衛 そう、おせきなさるな。話すなというても、話さずにはおられんことじゃ。実はな今日新郡奉行|筧《かけい》左太夫様のお役宅へ出たのじゃ。ところが、御奉行様の仰せらるるには、お上が今度の一揆に対しての御沙汰は恩威並びに行うという御趣意じゃと、こう仰せられるのじゃ。それでな、年貢米は、嘆願によって免除する代りに、一揆の発頭人は、一昨日御坊川で磔にした。また、松野八太夫様に礫《つぶて》を打った下手人は、草を分けても
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