けに、帰ったらすぐよこせるいうたぞ、嬶《かか》が。
村年寄乙 上笠居の甚兵衛が、見えんぞな。
村人三 うん。甚兵衛どんが、来とらん。
村人四 あなな気の毒な人、来いでもええじゃないか。
村人五 また、あなな阿呆来たとて、しようがない。
村人六 阿呆阿呆いうない。少し阿呆じゃけになお可哀そうじゃないか。
村人七 そうじゃ。阿呆じゃけど、ええ人じゃ。義母や兄弟たちに苛《いじ》められるので、いよいよ阿呆になるんじゃ。
村人六 そうじゃとも、長い間、苛めぬかれたでのう。家や田畑は、弟に取られるしな、食物もろくろく食わせらんし、なんぞ口答えすると、弟三人がよってたかって殴《ぶ》ち打擲《ちょうちゃく》するんじゃもの。
村人五 けど、阿呆じゃもの、しようがないわ。
村人六 阿呆でも、長男は長男じゃものな。
村人八 死んだ甚七は、あまりおきん婆に甘かったから、いかんのじゃ。
村人六 そうじゃ。死んだ爺《じじい》もわるいんじゃ。だがのう今度の一揆にやってあのおきん婆の仕打ちはどうじゃ。足腰のたっしゃな息子が三人もあるのにな。自分の息子は出さんでな。常日頃、苛めぬいとる甚兵衛どんを出すんじゃものな。
村人
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