おきん 出られないように戸を閉めて、しんばり棒、こうとけ。明日から粟の飯一杯もやらんぞ。(やや声を低めて)今時、死んだとて、誰も不思議がりゃせんわい。
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(甚吉、戸を閉め、棒を探してきて、しんばり棒をかう。この前より、周囲がようやく暗くなり始める)
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おきん 吉、きいたか。綾郡に一揆が起ったということを。
甚吉 きいたとも。御城下でえらい騒ぎじゃ。香東川の堤で、早馬に二度も行き会うたぞ。
おきん それでのう、御城下に押し寄せる道筋じゃけに、この村へも追っつけ来るでのう、加担するか加担せんか評議するためにのう、八幡様で暮六つから集りがあるから来いいうてな、勘五郎どんが、ふれて来たぞ。
甚吉 一揆の加担人《かとうど》か。こんな時、下手まごつくと首が飛ぶし、それかというて、後込《しりご》みしとると一揆からひどい目にあうしのう。
おきん とにかく、行って来るがええぞ。それでのう、身をたしなんで、出しゃばらんがええぞ。先ばしりしてわしに心配させるでねえぞ!
甚吉 じゃ、ぼつぼ
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