しゃ、石を投げたんじゃ。投げたんに違いないんじゃ。
甚吉 何ぬかす。この阿呆め!
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(甚兵衛を叩こうとする。村人七、八止める)
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村人七、八 何するんじゃ。仮にも、兄たるものに、手をかけるやっがあるけ。
甚吉 お前さんたちじゃ。お前さんたちじゃ。こなな阿呆のいうことを取り上げて、こなな阿呆を下手人にして、罪を逃れようとして。庄屋どんも、きこえんぞ。阿呆はええけど、阿呆につながる親兄弟の難儀をどうするんじゃ。
村人七 なんやと。こなな阿呆じゃと。そなな阿呆を、どうして一揆に出したんじゃ。おぬしのような利口な息子が三人もあるのに、そなな阿呆を何故一揆に出したんじゃ。甚兵衛が石を投げたというのも、みんな、お前たちが投げさしたんじゃないか。
甚吉 ええ、何をぬかす。お前たちが皆、よってたかってこの阿呆になすりつけたんじゃないか。
村人八 何ぬかす、そなな阿呆なら、なぜ一揆にやるんじゃ。
村人たち そうじゃ。そうじゃ。
甚吉 (甚兵衛に取りすがって)早う、いうたことを取り消せ。松野様に、石を投げたというと、お前磔じゃぞ。
甚兵衛 (さのみ驚かず)磔じゃとてええわ。村の衆が、みんな欣んでくれるんじゃもの。
甚吉 阿呆め! 俺のいうことをきいて、早う取り消せ。早う、取り消せ。お前のためにいってやるんじゃぞ。
甚兵衛 あははは。わしのため! あははは。わし二十九になるけど、お前がわしのために、ええことしてくれたこと一つもありゃせん。
甚吉 ええ何ぬかす。この阿呆め。……お庄屋様、お役人様。兄の申すことは、みんな嘘でな。こりゃ、阿呆じゃ。足らんのじゃ。こななもののいうこと、お取り上げになっては困りまする。お願いでござりまする。(座って狂気のように頭を下げる)
甚兵衛 (弟にならって頭を下げながら)お庄屋様、お役人様。ほんまじゃ。わしは、こななでっかい石投げたんじゃ。馬に乗ったお武士が来たけにのう、それを目がけて、こななでっかい石投げたんじゃ。
甚吉 何いうだ。この阿呆め。お前のような不具者に石が投げられるけ。
甚兵衛 何いうだ。お前は一揆について来んじゃもの。わしがしたことがお前にわかるけ……。わしゃこななでっかいやつを……。
甚吉 (兄に掴みかかる)何ぬかす……。(
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