誰ぞ出てくれい。誰ぞ出てくれ。
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(一座また静まって声を発するものなし)
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茂兵衛 じゃ、皆覚えがないというなら、わしゃ、そういってお奉行様に、お返事申し上げるほかはないぞ。念のためにもう一度だけ、きこう、あの騒動のときに、誰ぞ石を投げたものはないか。あの騒動のときに、誰ぞ石を投げたものはないか。石を投げた人は村のためじゃと思って出てくれ。
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(甚兵衛は、最初より茫然として、人々の話をきいていない。ただ庄屋の最後の声が大きいので、ふと耳をかたむける)
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村年寄甲 さあ、今じゃぞ、石を投げた覚えのある人は出てくれ。
村年寄乙 村を救うてくれるのなら、今じゃぞ。今出てくれんと、村はえらい難儀になるんじゃ。
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(村年寄の絶叫する声を聞いて、甚兵衛むくむくと立ち上る。甚作驚いて制止しようとする)
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甚兵衛 なんやと、騒動のときに、石を投げた者ないかいうのけ。
村年寄甲乙 そうじゃ。そうじゃ。
甚兵衛 (子供のごとく無邪気に)わしゃ投げたぞ。
村年寄村人たち ええ、甚兵衛どん。お前投げたか。
甚兵衛 投げたとも。わしゃ二つ投げたぞ。
村年寄村人たち ほんまか。ほんまか。(驚喜す)
甚作 (駆けよって)兄や、何いうんじゃ。
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(おどろいて兄の口を制せんとしながらいう)
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甚兵衛 (うるさそうに、弟をはねのけながら)ええ、あっちへいとれ。わしゃ、投げたぞ。おまけに、一つの方はこななでっかいやつじゃ。藤作どん。われも投げていたじゃないか。勘五郎どん、われも投げていたじゃねえか。
勘五郎 (愕然として)滅相な、わりゃ何をいうだ。
藤作 (同じく)ほんまじゃ。人違いして何いうだ。
甚兵衛 そうけ。人違いだったか。わしゃ皆投げていたけに、わしも真似して投げたんじゃ。
勘五郎 (なお震えながら)滅多なこというな。そりゃ、皆|他
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