間もなくあなやと思う間に自転車は縄に突き当って、ボートルレの身体は三|米突《メートル》ばかり投げ出され、地上に叩きつけられた。しかし全く幸《さいわい》なことに、たったわずかのところで、路《みち》ばたの大石の前で止まった。その大石に頭を打ちつけでもしたら、ボートルレの頭はめちゃめちゃになるところであった。しばらくの間彼は気を失っていたが、ようやくにしてすり剥いた膝を抱えて起き上り、あたりを眺めた。曲者は右手の小さな林から逃げたらしい。ボートルレは起き上ってその縄を解いた。その縄を結びつけてある左手の樹に一枚の小さな紙切がピンで止めてあった。それには、
「第三囘の通告、そしてこれが最後の忠告である。」

            解かんとする謎の記号

 ボートルレは血だらけになって邸へ着くと、すぐ少し下男たちに何か尋ねてから判事に逢った。判事はボートルレを見ると、傍にいた書記に外に出ているようにと命令《いいつ》けた。判事は少年の血のついたのを見て叫んだ。
「あ! ボートルレ君一体どうしたのです。」
「いえ、何でもないんです。しかし判事さん、この邸の中でさえも僕のすることを見張っている者があ
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