ころに落ちていたものであった。
「どうもこの紙片《かみきれ》は何の手懸《てがかり》にもなりそうにありません。」と判事はいった。
 ボートルレはその紙片《かみきれ》を打ち返し打ち返し眺めた。それには次のような記号と点が紙一面に記してあった。
[#暗号紙片の図(fig46187_01.png)入る]

        三 惨死体
            令嬢は生死不明

 判事は書記を連れて、ドイエップへ帰る馬車を待っていた。判事はその前にも一度ボートルレに逢いたいと思ったがその姿が見えなかった。書記も知らないといった。朝から見えないのであった。判事はふと思いついて僧院の方へ行ってみた。ボートルレは僧院の傍の松葉が一面散り敷いている地面に腹這いになって、腕を枕に眠っているような風をしていた。
「君、何をしているんです。眠っていたの?」
「いいえ、僕は考えていたんです。」
「今朝からずっと?」
「え、今朝からずっと。ね判事さん、犯人は初めからレイモンド嬢を殺すつもりだったのなら、なぜわざわざ外まで連れ出して殺したのでしょう? そしてその死体はどうしたのでしょう。」
「さあ、それは私にも分らん
前へ 次へ
全125ページ中39ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング