った宛名の略字に何とありますか、A《ア》・L《エル》・N《エヌ》すなわちアルセーヌの一番初めの文字《もんじ》と、ルパンの名の初めと終りの文字をとったのです。」
「ああ、君は実に偉い天才です。この老ガニマールも負けました。」とガニマールはいった。ボートルレは喜びに顔を赤くして老探偵の差し出した手を握った。三人は露台に出た。そしてルパンが隠れているという僧院を見下《みおろ》した。判事は呟くように、
「してみるとあいつはあそこにいますね。」
「あそこにいます。」とボートルレは重々しげにいった。「銃で撃たれた時からルパンはあそこにいるのです。いかにルパンでもあの時逃げ出すことは出来ないことだったのです。」
「そうするとどうして生きているのだろう。食物《たべもの》や飲物も入るだろうに。」
「それは僕にはいえません。しかし彼があそこにいることは決して間違いありません。僕はそれを断言します。」
探偵の手懸《てがか》り
僧院の方を指《ゆびさ》したボートルレの指先は空中に一つの円を描いて、それをだんだんに小さくしてとうとうある一点に止《とど》めた。判事と探偵はその一点を見つ
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