しまだ他の泥棒でもいて、……お父様に飛びついたら……」
「でも……下男を呼びましょう……呼鈴《よびりん》が下男部屋に通じているわよ。」
「そうよ……それはいい考《かんがえ》だわ……でもいい工合《ぐあい》に来てくれればいいわね。」
 レイモンドは寝床の側《そば》の呼鈴を強く押した。……りりっりんりりっりん……と下男部屋の方に鳴った鈴《りん》の音が、しーんとした家の中に響き渡った。二人の少女は抱き合って息をひそめた。あとはまた元の静けさに返って、その静けさは実に恐ろしい。
「私恐いわ……恐いわ。」とシュザンヌは繰り返した。
 その時突然階下の暗闇の中から、にわかに人の格闘する物音が聞えてきた。つづいて物の倒れる音、罵る音、叫ぶ声、最後に喉でも突き刺されたような恐ろしい、物凄い、荒々しい悲鳴、唸声《うなりごえ》がする。
 レイモンドは戸の方に飛んだ。シュザンヌは泣き叫んでその腕に取り縋った。
「いやよ……いやよ……残していってはいやよ。」
 レイモンドは彼女を押し退けて廊下へ飛び出した。シュザンヌもそのあとから泣き声を上げつつよろよろと転ぶように走った。レイモンドは梯子を駆け降りて、大きな客
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