にそうです。」
「いや、それは間違いだ。」
「まあ、判事さんお聞きなさい。ちょうど一年前ある一人の男が、伯爵のところへ尋ねてきて、あの名画を写させて下さいと申し込みました。伯爵が許されたので、その男は早速それから五ヶ月も毎日この客間に来て写していったのです。ここに掛っているのは、その時写した方の偽物です。」
怪少年の明察
判事とガニマールとは驚いて眼を見合わせた。
「とにかく伯爵に聞いてみよう。」と判事はいった。伯爵は呼ばれた。そしてついにボートルレは勝った。伯爵はしばらく困ったような顔をしていたが、やがて口を開いた。
「実は判事さん、この名画は四枚とも偽物です。」
「では、なぜさようおっしゃらなかったのです。」
「私は穏《おだやか》な方法でその絵をとり戻そうと思ったからです。」
「それはどんな方法ですか?」
伯爵は答えなかった。ボートルレは代《かわ》って答えた。
「この頃、大きい新聞に『名画買い戻す』という広告が出ています。あれがそうです。」
伯爵は首肯《うなず》いた。またしても少年は勝った。判事はますます感心してしまった。
「君は実に偉いですね。ど
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