ですね、実に面白いです。ね、判事さん出来事を一つ一つ集めて、だんだん事件の真相らしいものが出来上っていくのを見ていると実に愉快です。」
「真相らしいというのは、こりゃ面白い、すると君は今度の事件の真相についていくらか分りそうですか。」
「いいえ。」とボートルレは笑いながら答えた。
「ただ一つ、僕には意見をつくることが出来そうです。またそれからその他にもたいへん大切な考が出来そうです。」
「へえ、君から何か教えてもらえるかもしれんねえ、はずかしいが私にはちっとも分らない。」
「それは判事さん、あなたがまだ十分考える時間がないからですよ。僕はこうしてあなたが種々《いろいろ》調べたことから真相らしいものを考え出すんです。」
「偉い!そうするとこの客間から何か盗まれたんですか。」
「僕はちゃんと知っています。」
「なお偉い!この家の主人よりよく知っている。では犯人の名前も知っているでしょう。」
「それも知っています。」
 その場にい合わせた者は皆|吃驚《びっくり》した。検事と新聞記者は椅子を進ませ、伯爵と二人の令嬢は、ボートルレの落ちつき払っているのに感心してなおも耳を傾けた。
「すると犯人の
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