ろうと。今まで駄々をこねて居た信長は流石名将だけに、直に政綱の言に従って善照寺には若干兵を止め旗旌《きせい》を多くして擬兵たらしめ、自らは間道より田楽狭間に向って進んだ。此日は朝から暑かったが昼頃になって雷鳴と共に豪雨が沛然《はいぜん》と降り下り、風は山々の木をゆるがせた。為に軍馬の音を今川勢に知られる事もないので熱田の神助とばかり喜び勇んで山路《やまじ》を分け進んだ。
外史氏山陽が後に詠んだのに、
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|将士銜[#レ]枚《しょうしはばいをふくみ》|馬結[#レ]舌《うまはしたをむすぶ》
|桶狭如[#レ]桶《おけはざまおけのごとく》雷擘裂《らいへきれっす》
|驕竜喪[#レ]元《きょうりゅうもとをうしない》敗鱗飛《はいりんとぶ》
|撲[#レ]面《めんをうつ》腥風雨耶血《せいふうあめかちか》
一戦始開撥乱機《いっせんはじめてひらくはつらんのき》
万古海道戦氛滅《ばんこかいどうせんふんめっし》
唯見血痕紅紋纈《ただみるけっこんくれないにぶんけつするを》
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笠寺の山路ゆすりしゆふたちの
あめの下にもかゝりけるかな
[#こ
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