。幽霊だから切り払われても大した事はないのであろうが良真は飛び退いて曰く、「汝の運命尽きたのを告げに来たのだ」と。出陣間際に縁起でもないことをわざわざ報告に来たわけである。義元も敗けて居ずに「汝は我が怨敵《おんてき》である、どうして我に吉凶を告げよう」、人間でなくても虚言《うそ》をつくかも知れないとやり込めた。良真は「なる程、汝は我が怨敵だ、しかし今川の家が亡びるのが悲しくて告げに来たのだ」と云いもあえず消えてなくなった。
其他に、駿州の鎮守総社大明神に神使として目されていた白狐が居たのが、義元出発の日、胸がさけて死んで居たとも伝える。
どれも妖語妄誕だから真偽のほどはわからない。義元この戦に勝ったならば、このような話は伝らずにおめでたい話が伝っただろう。
閑話休題、十五日には前軍|池鯉鮒《ちりう》に、十七日、鳴海に来って村々に火を放った。
義元は十六日に岡崎に着いて、左の様に配軍せしめた。
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岡崎城守備 庵原《いおはら》元景等千余人
緒川、刈屋監視 堀越義久千余人
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十八日には今村を経て沓掛に来り陣し、ここで全軍の部署を定め
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