んこともないでな。親兄弟の恥になるでな、こなに高い所に上って、おらんでいるとなあ。
藤作 けど弟さんの末《すえ》さんが町の学校でようできるんやけに、旦那もあきらめがつくというもんやな。
義助 末次郎《すえじろう》が人並にできるんで、わしも辛抱しとんや。二人とも気違いであったら生きとる甲斐がないがな。
藤作 実はな、旦那さん。よく効く巫女《みこ》さんが昨日から島へ来とるんでな。若旦那も一ぺん御祈祷《ごきとう》してもろうたら、どうやろうと思うて来ましたんやがな。
義助 そうけ。けど御祈祷しても今までなんべん受けたかわからんけどもな、ちょっとも効かんでな。
藤作 今度ござらっしゃったのは金比羅《こんぴら》さんの巫女さんで、あらたかなもんやってな。神さまが乗りうつるんやていうから、山伏《やまぶし》の祈祷とは違うてな、試してみたらどんなもんですやろ。
義助 そうやなあ。御礼はどのくらい要るもんやろ。
藤作 治らな要らんいうておりますでなあ。治ったら応分に出せいうとります。
義助 末次郎は、御祈祷やこし効くもんかいうとるけど、損にならんことやけに頼んでみてもええがなあ。
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