《はとばぬし》の子、ステフアン・キイスリングの作であると告げられました。
ネルロが気がついた時は、彼は玄関先の石の上に倒れていて、パトラッシュが一生懸命彼を正気づかせようと鼻をすりつけていました。すこしはなれたところでは、アントワープの少年団が入選した名誉ある友達を大さわぎをしてとりかこみながら、これからその埠頭場《はとば》の家まで威勢よく送って行こうとしているところでした。ネルロはよろよろと立ち上って、パトラッシュをしっかり抱きしめました。
「ああ、もうだめだ。パトラッシュ、もう何もかも。」
ネルロは幾度も倒れそうになるのを、ようよう踏みこらえました。もう、お腹が空き切って、辛抱できないほどです。やっぱり、村へひきかえすほかはないのです。犬は頭をたれて、したがいました。パトラッシュの強い足も、もうつかれはてているのでした。雪はますます降りしきりきびしい北風が吹きつけました。野原は殊に凄まじく、慣れた道を横切るにも、並大抵ではないのでした。やっとの思いで村に近づいた時、鐘が四つ鳴りました。突然パトラッシュは立ち止りました。なにか、雪の中にかぎつけたものとみえ、妙な吠え方をして、咬《
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