う腹ぐろい人達も交って、ジェハンじいさんの孫は、全く可哀想な立場におかれてしまいました。
 村の人達は誰もまさか、コゼツの旦那の言葉を、信じるわけではないのですが、何しろ、狭い村のことではあり、村一番のお金持の気に逆っては何かと自分たちの損ですから、あんまり親切そうにしているところをコゼツの旦那に見られては面倒だと、みんな、申し合せたように、ネルロを避けるようになってしまったのでした。ですから、それからは、ネルロとパトラッシュが、毎朝アントワープへ運んで行く牛乳の御用を聞きにまわっても、牧場主たちは、以前のように、何かと親切に計らってくれず、素気ない態度で、あまり口も利いてくれないのでした。
 粉挽屋のおかみさんは、涙ぐんで、おそるおそる主人に言いました。
「あなた、それではあんまり可哀想ですわ。私、あの子が気の毒でたまりません。あの子はほんとに、無邪気な正直者ですもの。いくら、くやしくかんじたことがあったとしたって、ゆめにもあんな大それた悪いことをするような子ではありませんわ。」
 けれどもコゼツの旦那は一徹者ですから、一度、自分の口から言いふらしたことは、是が非でも、押し通さねばす
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