なオルガンの音と、讃美歌の合唱がながれていくのでした。芸術家の墓のうちでも、こんないい場所にこれほど立派に立っているのは少いでしょう。
さて、パトラッシュの心配というのはこれでした。この、厳かにそびえている古びた石造建築の中に、時折ネルロの姿が消えてしまう。その暗いアーチ型の玄関の奥にネルロが吸いこまれてしまって、パトラッシュだけがぼんやり、敷石の上にとり残されるのです。
パトラッシュは、一体どんな面白いものがあって、自分と離れたことのない仲よしをいつもいつもあの門内へさそいこんでしまうのだろうと、ふしぎでたまらないのでした。一二度、彼はそれを見きわめようとして、牛乳車をくっつけたまま、入口の石段をガラガラのぼりかけたことがありましたが、その度、黒服に銀のくさりをつけた脊《せ》の高い門番に一言の下に追いかえされてしまいました。パトラッシュは仕方なく、小さい御主人に変りがなければいいがと案じながら、じっとねそべって、ネルロが出て来るのを辛抱強く待っているのでした。
パトラッシュはどこの村の人たちも教会へ行くことを知っています。大ぜい揃って、あの赤い風車のむかいの、古ぼけた教会堂へ出かけるのも見ていますから、ネルロが、お寺へ入るのが別に心配というのではありません。ただ、気になるのは、その町の寺院から出て来る時のネルロの顔いろなのでした。非常に興奮したようにあかくほてった頬をしているかとおもえば、またひどくあおざめている時もあって、そう言う日にかぎって、家へかえってからも、ぼんやり夢みるような眼をして、すわりこんだきり、一向遊ぼうともしないのです。そして運河の彼方に暮れていく空をながめては、いかにも、思い沈んだかなしげな様子をしているのでした。
パトラッシュは、心配で心配でたまりません。これは一体どういうわけなのだろう、なんにせよ、こんな小さい子供が、こんな真面目くさった顔つきになるのは、普通でもないしよいことでもないと、パトラッシュは口にこそ出さね、気をくばって、ネルロの行くところは野と言わず、市場の人混みと言わず、片時もそばをはなれないことにきめたのでした。
おかしいことには、ネルロは村の教会へは行こうともしません。ただ行きたがるのはあの町の大寺院だけです。パトラッシュはその寺院の大門のそとに取り残されて脊のびをしたりため息をついたり、はては大声に吠えたりし
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