魔が、
「おれの仕事はうまくすすんで行っている。明日シモンは親爺《おやじ》のところへ帰るだろう。」
と口を切りました。
「どうしてそううまくやったのだ。」
と仲間が聞きました。すると第一の小悪魔は、
「まず第一におれはシモンを大へんな向う見ずにしてやった。するとあいつは大たんになって、王様に、全世界を攻め取ってやると言ったのだ。ところが王様がそれをほんとにして、あいつを大将にして印度《いんど》王征伐にやった。両軍は向い合って陣をとった。ところがおれはその前の晩シモンの陣にある火薬をすっかりしめらせておき、また印度王の方にはかぞえ切れないほどの藁の兵隊をこしらえてやった。するとシモンの兵隊は、その大ぜいの藁兵にとりかこまれて、すっかりおそれてしまった。シモンは打てと命《い》いつけた。ところが鉄砲も大砲も弾丸《たま》が出なかった。そこでシモンの兵隊はおびえて羊のように逃げ出し、印度王はそれを、すっかり討ち取った。シモンはさんざんだ。王様は大そう怒って、シモンの領地を取り上げてしまうしみなは明日やつを死刑にしようとしている。それでおれの仕事はあと一日だけ、あいつをあいつの田舎へ逃してやるため
前へ 次へ
全61ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング