おじいさんは、
「じゃ、イワンが何というか聞いてみよう。」
と言いました。
イワンは、
「兄さんの欲しいだけ上げなさい。」
と言いました。
そこで兵隊のシモンは父親から分前《わけまえ》を貰ってほくほくもので自分の領地へうつしまた王様のところへ行って仕えました。
肥満のタラスもたくさんのお金をもうけてある商人の家《うち》へおむこさんに行きましたが、それでもまだお金が欲しいと思いました。そこでやはり父親のところへ出かけて行き、
「私にも私の分け前を下さい。」
と言いました。
しかし父親はタラスにも分けてやりたくなかったので、
「お前は、何一つ家《うち》へは持って来なかった。この家《うち》にあるものは、みんなイワンがかせぎ上げたのだから、どうしてあれや娘によくないことが出来よう。」
と言いました。が、しかしタラスは言いました。
「イワンに何が入るものですか、あいつは馬鹿です、誰だって嫁に来るものはありません。またあのおし[#「おし」に傍点]だって何にもいりはしませんよ。」
そしてイワンに向って、
「おいイワン。おれに穀物を半分おくれよ。おれは道具なんか貰おうとは思わない。あの葦毛《あしげ》の馬を一匹貰おう。あれはお前の畑仕事にはちっと不向きのようだから。」
と言いました。イワンは笑って、
「何でも入るだけ持って行くがいい。私はまたかせいで手に入れるよ。」
と言いました。
そこでタラスにも分前だけやりました。で、タラスは荷車で穀物を町へ運び、種馬をつれて行きました。こうしてイワンはよぼよぼの牝馬《めうま》を一匹だけ残され、以前《まえ》通り百姓をして両親を養って行きました。
二
ところが、それを年よった悪魔が見ていました。悪魔は、兄弟たちが財産の分け方でけんかをするだろうと思っていたのに、べつにいさかいもなく、仲良く別れて行ったので大へん腹を立てて、早速三人の小悪魔《しょうあくま》を呼び集めました。そして言いました。
「ここに兵隊のシモン、肥満《ふとっちょ》のタラス、馬鹿のイワンと言う三人の兄弟がいる。こいつらは当然けんかをしなくてはならないのに仲良く暮し合っている。あの馬鹿のイワンの奴がすっかりおれの仕事をだいなしにしてしまったのだ。ところでお前たち三人は兄弟三人に取《と》ついて奴等がお互いに目玉を引っこぬくようにしてやるのだ。どうだ、出来
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