「ああ、やっと一つのがれたと思えば、こんどは前よりも、もっと悪いことがやってくる。ほんとうに、どうしたらここからにげて行くことができるのだろう。」
と言って、私たちはなげきました。
 それでも、助かった二人は、走りつづけて、やっと高い木の下まで来ました。そして、大いそぎで、その木へのぼりました。
 その木には、運よくも、果物がなっていました。そこで二人は、まずお腹《なか》をこしらえました。
 その夜、私は、一ばん高い枝にのぼっていましたが、また蛇のざーざーいう音で目をさましました。すると、どうでしょう、蛇は、木にぐるぐるとまきついて、今にも、たった一人の私の仲間を、のもうとしているのです。そして、あっというまもなく、また大きな口をあけて、ぺろりとのみこんでしまいました。
「ああ、こうなっちゃ、もうどうしたってだめだ。晩にのまれるのを、じっと待っているよりも、いっそ、がけの上から、海へとびこんで死んでしまおう。」
 こう、私はひとりごとを言いました。
 けれども、海べまで来てみますと、そんなことをするのは、あんまりいくじがなさすぎると考えたのであります。
 そこでまた、引き返してきて、
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