ら、
「さあ、シンドバットや、セレンジブ王が、どんなにお金持で、どんなにりっぱであるか、話してごらん。」と、おっしゃいました。
私は、
「陛下、それは、とても私のつたない言葉では、申し上げることができないかと存じます。セレンジブ王は、いつも大きな象に乗っておいでになりますが、おそばには、金色の着物を着た千人の騎兵《きへい》が、つかえているのでございます。そして、王さまの金のほこ[#「ほこ」に傍点]には、エメラルドでかざりがついております。まあ、申してみれば、ソロモン王のような、くらしをあそばしていらっしゃるとでも申しましょうか。」
と、お答えしました。
王さまは、熱心にお聞きになりました。そして、私に、ごほうびをくださいました。
私は、家の者や、友達が待っているだろうと思って、大いそぎで家へ帰りました。それから、持って帰った宝物を売って、貧乏人にほどこしをしました。
その後は、しずかに、楽しい日をおくりましたので、今までの、おそろしかったことや、つらかったことは、遠い昔のゆめではないかとさえ、思うようになりました。
これで、シンドバッドは、第六航海の話を終りました。そして、お客さまたちに、あしたの晩もまた来てください、と言いました。
あくる晩、また、お客さまが、みんなテーブルについて、ごちそうがすんだ時、シンドバッドは、いよいよ一番おしまいの航海の話をはじめました。
一|番《ばん》おしまいの航海《こうかい》の話《はなし》
さて、六度めの航海の後は、私はもう、けっしてどこへも行くまいと、心にきめていました。もう、ぼうけんがしたいとも思いませんでした。
しかし、ある日、友達を呼びあつめて、ごちそうをしています時、召使の一人が入って来て、
「ただ今、カリフさまのお使がお見えになって、だんなさまにお目にかかりたい、とおっしゃいますが。」と、言うのです。
私は、お使を通させて、さて、
「どういうご用でございましょうか。」と、聞きました。
するとお使は、
「カリフさまが、お召しでございます。すぐにおいでください。」と、言いました。
仕方がないので、私はすぐに御殿へ出かけました。そして、王さまの前に出ました。
「シンドバッドや、ひとつお前にたのみたいことがあるのだがね。それは、ほかでもない。わしは、セレンジブ王に、手紙と、おくり物とを、さ
前へ
次へ
全34ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング